おわりのはなし

すきなひとが結婚するそうだ。
12年間、好きだった

12年間ずっと幸せだった 彼が息をしているそれだけで暖かな気持ちでプールは満たされどうか健やかであれと優しい気持ちになれた。
そしてわたしの12年はひとり相撲ばかりで空っぽだった。
こんな肥大した気持ちはとてもじゃないが生身の人間が受け止められるものではない。わたしの中で彼はたったひとりの異性で先生で、神様みたいなものだった。
興味のない映画だって彼が好きだと言えば狂ったように何度も観た。彼が愛したものをわたしも愛したかった
虚になった部分は、彼の偶像が暖かく満たしてくれたので苦しいことはあまりなかった。
それでもこの気持ちを捨てたくて、出来うることは殆どした
年上とも年下とも付き合った ホストも行った 同棲もした。全部全部間違って、いたずらに人を傷つけた。

彼の泣き顔を1度だけ見たことがある。
わたしの傷は彼で塞ぐことができても、彼はわたしでは癒されない。この時に気づいた。どうか彼のこころを満たすことができる人が現れるまで、それまでは好きでいさせて欲しい
何も出来ずいつか優しい安息が訪れますようにと願いながら、丸い後頭部の柔らかい猫毛を掌で感じていた。

実家が近かったので毎週会うこともあれば平気で半年以上連絡すら取らないこともあった 12年もあればそんなこともしょっちゅうある。12年だ。わたしの人生の約半分もある 無限に続く夢かなと思う時期もあった

わたしが簡単に諦めたり逃げたり辞めてしまっても、彼はずっと頑張っていた。
わたしは知っている。わたしになくて彼が持っているわたしの大好きな側面。
生真面目で礼儀正しく美しい彼の人生が、優しい人との時間でより素晴らしいものになりますように。
さいごまで、わたしの愛した神様でいてくれてありがとう。どうか幸多からんこと、二度と会うことはないでしょう